ここ数年、国内林業の活性化や地球温暖化の抑制などから、木造が推進されています。これにより、今まで木造の構造計算プログラムを作っていなかった構造計算プログラムメーカーも木造構造計算プログラムをリリースしています。
木造構造計算プログラムで一番歴史が古く、シェアも多いのがKIZUKURIですが、木構造による様々なアプローチが行われている現在、KIZUKURIでは対応できる建物形状、計算条件に限界があり、物足りない。
そこで一貫構造計算プログラムメーカーの木造構造計算プログラムを検証してみます。
一貫構造計算プログラムメーカーの木造構造計算プログラムとしてはアークデータ研究所のASTIM、構造システムのHOUSE-ST1、構造ソフトのMOKUZO.Designerがあります。
ユニオンシステムにはSuper Build/イシローと言うのがありますが、これは既に開発を行っていないようです。このプログラムを使っていると言う人も聞いたことがない。
木造以外の構造計算はSuper Buildユーザーである私は構造システム(HOUSE-ST1)、構造ソフト(MOKUZO.Designer)のソフトは入力が面倒、出力が見づらいとのイメージを持っており、抵抗がある。。。
そこでアークデータ研究所のASTIMを検証してみる事にする。新しいプログラムの導入を考えるのであれば、グリッドフリーなどで定評のある高性能プログラムにしたい。
ASTIMは計算機能ごとに「ASTIM/立体フレーム」、「ASTIM/壁フレーム」、「ASTIM/壁量」のモジュールに分かれています。
ASTIM/立体フレームは、許容応力度計算に基づき、木造の断面算定(日本建築学会:「木質構造設計基準・同解説」による)を行うもの、
ASTIM/壁フレームは、木造軸組み構造における46条2項ルートでの立体応答解析行う際の壁倍率を「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」公益財団法人 日本住宅・木造技術センター(通称グレー本)に沿った方法で扱うもの、
ASTIM/壁量は、4号建築物の壁量計算です。また、オプションとして、保有耐力計算、基礎計算もあります。
今回は「ASTIM/壁フレーム」を中心に検証を行います。尚、ASTIMの体験版はコチラより、ダウンロードできます。
まず、入力ですが、体験版を開いてみた所、マニュアルを読まなくても直感的に入力できる分かりやすいインターフェースとなっています。
入力はシンプルと言っても荷重条件、部材条件、計算条件の細かい指定が出来ないとの事はなく、KIZUKURIにある入力項目は、ほぼ全て網羅しており、更に細かい指定も可能です。
簡単に言うと普通の一貫構造計算プログラムと同じような条件設定が出来ます。
補正計算、追加計算を行えば、検討できない事はないのですが、その手間を考えるとプログラム内で検討検できる方が構造設計者は嬉しい。
これがASTIMの真骨頂!どんな複雑な形状でも、そのままの形状で対応出来ます。
木造の建物と言えば、一番複雑な形状となるのは屋根。単純な陸屋根、切妻屋根だけでなく、グリッドに対し斜めの部材となる隅木が発生する寄棟屋根、また、もっと複雑な屋根形状となる建物も普通にあります。
ここが木造の面倒な所なのですが。。。部材のかけ方によって、荷重の流れも変わり、部材の断面計算も変わります。KIZUKURIでは良くあるようなちょっと複雑な屋根も入力できない。ASTIMはこれが実状通りに入力できるのは嬉しい。
当然、KIZUKURIでは出来ない斜めフレーム、母屋下がりなどの形状の対応可能です。KIZUKURIでは平面的に斜めのフレームが存在する場合、座標軸に平行に入力し、壁倍率を調整したりしていましたが、ASTIMではそのような手間も必要なく、解析が出来ます。
更にもっと複雑なスキップフロアでも可能です。
ASTIMでは入力データの出力が出来ます。そんなの当たり前?KIZUKURIでは入力データの出力が出来ず、画面上でチェックをするしかありません。
一番大事なのは解析結果の妥当性の確認ですが、やはり、入力データのチェックは構造設計の中では必要不可欠です。これが出力し、チェックできるのは安心です。
構造設計を仕事にしている人でも木造の構造設計はやらない、木造は取っつきにくいと言う人も多くいます。何故、そう思うのでしょうか?
構造設計者であれば「構造計算=性能規定」と考えますが、木造の構造計算では仕様規定が多く存在するためです。
例えば、以下のような部分があります。
KIZUKURIを始めとする通常の木造構造計算プログラムもこのような独特のルールでの構造計算が行われています。
KIZUKURIでは部材の剛性に関係なく、梁は単純梁、水平荷重時応力は壁倍率に応じた負担水平力より、壁高さを乗じ、壁幅で除した軸力を算定しています。一方、ASTIMは我々、構造設計者に馴染みのある変位マトリクス法で応力解析が行われています。
従って、我々の感覚に合う応力結果となります。
金物のバネ剛性による接合部の条件も指定可能です。接合部金物に発生する応力を算定するにも係数を考慮して算定する必要もありません。層間変形角も壁倍率からでなく、部材剛性からの値となります。これこそ、性能規定=構造計算です。
尚、これはイレギュラーな設計方法ではなく、日本住宅・木造技術センター「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」(通称グレー本)に沿った計算方法です。
KIZUKURIでは部材種別などの条件を与えておくと断面および接合金物を自動選定してくれる便利な機能があります。この断面自動選定はASTIMにもあります。
まあ、構造計算プログラムで部材が自動的に選定できると言うのも木造の構造設計を行わない構造設計者からすると不思議な部分でありますが、木造のように部材数が多い構造には便利な機能です。ASTIMが少し違うのは、部材の符号に対し断面と金物をセットで登録し、自動選定はその符号を割り当てられることです。
本当に全てが数字だけで自動で選定されてしまうとそれは構造設計ではない。この方式は構造設計者も納得です。
また、KIZUKURIにあるプログラムからの構造図が自動で作成できます。これは便利です。ASTIMもこの構造図作成機能を搭載しています。ASTIMはKIZUKURI以上に実状に近い形状で入力が出来ますので、ほぼ、そのまま使える程度の構造図が出来てしまいます。
これも便利な機能です。
1階をガレージなどでRC造とするような良く建物もありますが、KIZUKURIではこのRC部分は別のプログラムで計算する必要があります。ASTIMでは混構造も一貫で設計が出来ます。
混構造ではKIZUKURIよりも格段に作業効率が上がります。
ASTIMには「オフセット解析」と言う機能があります。下図のように配置上、面などを合わせ、図芯を考慮した構造モデルで解析出来ます。これも構造設計者好みの機能です。
ASTIMは保有耐力計算まで一連で計算が出来ます。(オプション)これは、もちろん、KIZUKURIには無い機能。
「しかし、木造で適判かー。しんどい。(笑)」
まあ、通常は使用しない機能かとは思いますが、最近では4~6階建て(耐火構造)や木造とその他の構造によるハイブリッド構造も増えています。このような建物を設計するのであれば、保有耐力計算は必要です。
以前、読んだ木造構造設計の書籍で「木造の構造計算は算数だ。」と書かれていました。確かに木造の構造計算規定は構造計算と言えども仕様規定が多く、KIZUKURIも仕様規定によるプログラムです。まさに算数のプログラム。
よって、我々、構造設計者にとっては理解出来ない部分、満足出来ない部分があります。
一方、ASTIMは性能規定による構造計算プログラムです。算数ではなく、数字、工学によるプログラムです。簡単に言うと我々、構造設計者の感覚の構造計算プログラムです。
もちろん、構造設計は計算が全てではなく、特に不確定な要素が多い木造は注意すべき点も多い。しかし、より精度の良い解析が行える事は悪いことではありません。ASTIMは解析の精度を上げ、構造設計者の工学的判断の手助けをしてくれるプログラムです。
KIZUKURIが時代遅れの構造計算プログラムと言う訳ではありません。今後、木造においては四号特例の廃止など構造計算の義務化が行われることになるでしょう。KIZUKURIは意匠設計者が構造検討を行う際に使用するプログラム、
ASTIMは構造設計者が使用するプログラムと棲み分けがされていくのでしょう。
既に他の構造の構造設計を行っている構造設計者にはオススメです。
『建築構造設計べんりねっと』調査による構造設計事務所ランキング「日本の最大手構造設計事務所はどこか?」
『建築構造の名門、建築構造を学ぶには日大理工学部が最強』。これを調べるために日大理工学部建築学科を徹底研究します。
東京大学建築学科の構造系の授業でどのような教科書を使っているか
構造設計業界でにわかに話題になっている構造設計系ユーチューバーたぬきさんにインタビューしました。