建築基準法 構造関係規定の変遷~その背景は...

令和3年5月16日公開

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 改築・改修工事などの相談を受けた時、売買等に伴う耐震性の相談を受けた時、当時がどのような構造設計基準で設計されていたかを知っている必要があります。建築基準法における構造関係規定、各種構造設計基準の変遷をまとめました。
 また、一般的には「建築基準法の構造関連規定は過去の大地震がきっかけで改正、強化されてきた」と言われていますが、本当でしょうか?基準改正の背景について解説します。

建築基準法構造関係規定、構造設計基準の変遷


施行日 概要 基準日 災害・事件
大正13年(1924年)
6月10日
市街地建築法改正
・耐震設計基準の導入
・水平震度 0.1
  T12年 関東大震災
昭和25年(1950年)
11月23日
建築基準法制定
・水平震度 0.2
・許容応力度設計の導入
   
      S43年 霞が関ビル完成
昭和46年(1971年)
6月17日
建築基準法施行令改正
・RC造の帯筋の基準を強化(300ピッチ→100ピッチ)
  S43年 十勝沖地震
昭和56年(1981年)
6月1日
建築基準法改正「新耐震設計法」
・一次設計、二次設計(保有水平耐力計算)の導入
・Ai分布による地震力算出
確認申請許可日 S53年宮城県沖地震
平成7年(1996年)
9月
「冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル」発行
・STKR材に対する柱梁耐力比の規定導入
・BCR、BCP材の使用
   
平成8年(1997年)
1月
「JASS5」改定
・品質管理強度(+3N)の導入
   
平成8年(1997年)
12月
「建築物の構造規定」改定
・ピロティ構造の設計方法
・二次壁の取り扱い
・柱梁接合部の検討
・鉄骨柱脚の剛性評価方法の規定
  H7年 阪神淡路大震災
平成11年(1999年)
6月1日
建築基準法 平成の大改正(1年施行)
・確認、検査の民間開放
・中間検査制度の導入
確認申請提出日  
平成12年(2000年)
6月1日
建築基準法 平成の大改正(2年施行)
・限界耐力計算法の導入
・木造の接合部設計の強化
・その他、木造構造規定の強化
・積雪荷重、風荷重算定方向の改定
・地盤調査の義務化
・SWS試験からの支持力計算法の導入
・変形増大係数の導入
着工日 H7年 阪神淡路大震災

H10年 秋住事件
平成19年(2007年)
6月20日
建築基準法改正
・構造計算適合性判定の導入
・確認審査指針の詳細規定
・大臣認定構造計算プログラム制度の導入
・建築士に対する罰則強化
・PB耐力壁の壁倍率改定(1.0→0.9)
着工日 H17年姉歯耐震偽装事件
平成21年(2009年)
5月26日
建築士法改正
・構造設計一級建築士制度の導入
確認申請提出日
(半年間の猶予有)
H17年姉歯耐震偽装事件
平成21年(2009年)
9月1日
木造既存不適格建築物の増改築時の構造規定の緩和(告示566号改正) 着工日  
      H23年 東日本大震災
平成27年(2015年)
6月1日
建築基準法改正
・設計ルート2が適判不要
・設計ルート2-3の廃止
・建築主(申請者)による適判の直接申請
・EXP.Jとした建築物における異なる構造計算方法の適用
・構造計算適合判定資格者検定制度の創設
・“新”法38条大臣認定制度の創設
・建築設備等の製造者等に対する調査権限を充実
確認申請提出日 H19年 国交省不況

H27年 東洋ゴム、免震装置データ偽装事件
平成28年(2016年)
3月4日
基礎ぐい工事の適正な施工を確保するための大臣告示、ガイドライン 着工日 H27年 旭化成建材、杭施工データ偽装事件
平成31年(2019年)
1月15日
積雪荷重の強化(告示594号改正) 着工日 H26年2月雪害
令和2年(2020年)
3月1日
建築士法施行規則改正
全ての建物について(4号建物を含む)、建築士事務所の図書保存に「基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、 構造詳細図、構造計算書」を追加
図書を作成した日  
令和3年(2021年)
1月1日
建築基準法施行規則改正
確認申請図書(構造図、構造計算書)の設計者押印廃止
確認申請提出日 R2年 新型コロナウイルス

 日本で初めての建築基準法における耐震規定は大正13年(1924年)の市街地建築法改正です。これは大正12年の関東大震災を受け、改正されました。この時に佐野利器が提唱した「設計震度」が採用されます。この当時の水平震度は0.1と現在の1/2です。 昭和25年(1950年)には建築基準法が制定され、現在の許容応力度設計の導入されます。この時に水平震度は0.2となります。
 これ以前の建物となると2021年現在では築70年以上の建物であり、一般の設計者が係わることもなく、耐震設計の歴史の話です。

 昭和46年(1971年)に昭和43年の十勝沖地震の被害を受け、建築基準法施行令改正が改正されます。この時にRC造の帯筋の基準が300ピッチから100ピッチ以内と強化されます。中子筋を入れたり、高強度フープを使用している現在と比較すると 柱の帯筋が300ピッチと言うのは怖い感じがします。築50年程度の建物となるとので係わる可能性はあります。私なら、建て替えを奨めます。

 昭和56年(1981年)の建築基準法改正で現在の構造設計基準の基となる「新耐震設計法」が導入されます。近年の大地震でも新耐震の前後で被害が違うとの報告が多くされています。一般には新耐震以降は安全などと書かれている媒体も多くありますが、現在からすると古い基準と言わざるをえません。



 平成になってからの大きな構造設計基準の改定としてはまず、平成7年の阪神大地震による改定です。正式には平成8年(1997年)12月の「建築物の構造規定」の改定ですが、その前に緊急版が出版されており、以下の基準が導入されました。

 また、平成7年(1996年)「冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル」発行、平成8年(1997年)「JASS5」改定による品質管理強度(現在の構造体補正強度)+3N の導入が行われました。
 そして、平成12年(2000年)に平成の大改正(2年施行)と言われる建築基準法の改正(施行)が行われ、以下が導入されます。

 特に木造の接合部設計については大きな強化が行われます。また、木造戸建て住宅においても事実上、地盤調査が義務化されます。

 この平成7年(1996年)から平成12年(2000年)が近年においては建築基準法構造関係規定、構造設計基準が最も強化、変更された時期です。この間の改正が現在の構造設計基準と呼ぶべきでしょう。
 以降は現在に至るまで、構造関係規定の大きな変更は実質ありません。

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建築基準法、基準改定の適用日は?

 さて、上記のように建築基準法構造関係規定、構造設計基準が改定されてきましたが、既存建物に対する耐震性の相談を受けた際に問題となるのは、これらの建築基準法、基準改定がどのタイミングで適用されたのかと言う事です。
 基本的には以下のタイミングで適用されます。

 つまり、建築基準法の構造関係規定改定の適用日は図面に記載の日付でも建築確認済証の日付でもありません。完了検査申請書に記載された工事着手年月日を確認する必要があります。
 補足ですが、建築基準法の施行日の直前に適用をさけるために多くの建物が駆け込みで着工します。重機、材料の一部を搬入しただけなど、実質に着工していない建物も多くありました。

 「建築物の構造規定」(現在、建築物の構造関係技術基準解説書)、「冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル」は事実上、建築基準法改正と同等となっていますが、建築基準法のように改正日と施行日が判れておらず、発行後即時に適用となります。 しかし、それでは混乱が生じるため、実態としてはある時期までは審査機関に適用の判断が任されていました。JASS5などの建築学会指針は法律ではないので、その適用は基本、設計者に任されますので定着まではより多くの時間が掛っています。

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建築基準法の構造関係規定改定の背景は?

 一般には「建築基準法の構造関連規定は過去の大地震がきっかけで改正、強化されてきた」と言われています。確かに関東大震災(大正12年)、十勝沖地震(昭和43年)、宮城県沖地震(昭和53年)、阪神大震災(平成7年)まではそうでしょう。 しかし、阪神大震災以降の建築基準法の構造関係規定改定は大地震ではなく、企業(メーカー)、設計者側の問題が要因です。

 平成12年(2000年)の建築基準法改正(2年施行)では木造建築物における構造設計規定の強化が多く行われています。阪神大震災による構造関係規定の強化とも言われていますがこの改正の本当の要因は、秋田杉の需要拡大を目的として設立された第三セクターである住宅販売会社「秋田県木造住宅株式会社」の起こした欠陥住宅問題です。これは社会問題にもなり、自民党の西川議員が国会でも取り上げた事がきっかけで建築基準法の改正、強化が行われました。平成7年の阪神大震災が要因と言うには時間が経ちすぎています。
 平成19年(2007年)の建築基準法改正は言わずと知れた姉歯建築士による耐震偽装事件がきっかけです。この改正は構造関係規定の強化の強化ではなく、建築確認、検査の厳格化、建築士に対する罰則強化が主な改正です。
 平成27年(2015年)の建築基準法改正では法12条5項の改正が行われ、特定行政庁が建築材料等を製造した工場への立ち入り調査や大臣認定等を受けたものに対しての調査ができるようになりました。これは東洋ゴムによる免震装置のデータ偽装事件が改正の原因です。  平成28年(2016年)には告示468号「基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置」が施行されています。これは旭化成建材の杭施工データ改ざん事件が原因です。

 平成23年(2011年)には東日本大震災、平成28年(2016年)が発生していますが、この地震による構造関係規定の強化は行われていません。このように建築基準法の改正は大地震がきっかけと言うよりも設計者、企業(メーカー)の不適切な対応がきっかけと言わざるを得ません。

 建築基準法の構造関係規定が改正されると言う事はそれ以前の建物は既存不適格となります。これは国交省がそれ以前の“耐震強度不足”、“法律の不備”と認めることになります。新しい知見などとは軽く言えません。また、想定外の事態などとも言うと世間から批判もされます。
 建築基準法の構造関係規定の改定を行うのは簡単ではないことなのでしょう。  

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