住宅メーカーの耐震技術をジャッジ!本当に技術力が高いのは何処?

 

 
P投げ銭!

令和5年9月23日

 住宅メーカーも技術開発、工法開発を行っており、様々な耐震技術、構造工法があります。しかし、対象は3階建て以下の戸建住宅、アパートなどが主なため、技術力の違いを出すのが難しいところ。中には在来工法を○○工法と名付けているだけもあります。

 一般の方はその違いを判断するのは更に難しいと思います。そこで、構造設計の実務者である筆者が各住宅メーカーの耐震技術、構造工法をジョブチューン風にをジャッジします。対象とするのは住宅産業新聞による2022年度 総販売戸数上位5社(大和ハウス、積水ハウス、旭化成ホームズ、積水化学工業、住友林業)とします。さて、一番技術力が高い住宅メーカーは何処?



【目 次】
  1. 大和ハウス工業

  2. 積水ハウス

  3. 旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)

  4. 積水化学工業(セキスイハイム)

  5. 住友林業



大和ハウス工業


【xevoΣ】

 80mm角の角形鋼管柱による梁通しの鉄骨ブレース構造です。多くのハウスメーカーによくある架構形式です。

 JISによる角形鋼管サイズは75mm、100mm、・・・の規格であり、80mmはありません。正直、75mm角に対する強度的に大きなメリットは感じられません。

 壁ブレースは「D-NΣQST」との名称で基本的には圧縮も効かせるタイプとなっています。特徴としてはブレース材が一直線ではなく、脚部をクランクさせ、Σ形デバイスとの名称の部材で接合しています。同社の説明では、この部分に力を集中させることで柱、梁の損傷を防ぐのと説明があります。
 確かにこの部分に曲げ応力が発生し、ブレース材の座屈を防止するものと思われます。FEM解析の結果だと引張応力のようにも見えます。ダンパーとしての制震効果を狙ったようにも思われますが、制震効果の具体的、定量的な説明はありません。この手の構造形式ではダンパーと耐力要素は分けるのが一般的ですが、この構造は一体となっているため、エネルギー吸収、減衰効果はあるものの、耐力が上がらないことが懸念点です。

 尚、Σ形は耐力的に言えば、通常のH形で良く、耐力的な問題よりも製作の合理性を狙ったものと思います。

ジャッジ!

 このように圧縮ブレースを用いると破壊形式が座屈となってしまいますが、この構造では「D-NΣQST」を採用した事により、脆さが改善され、復元力特性が良い構造に見えます。構造設計の専門家好みの工法です。
 また、この形状の鉄骨材を量産できる生産体制も素晴らしいものがあると考えます。


【グランウッド構法】

 集成材によるドリフトピンタイプの金物工法です。構造種別としては軸組壁工法、いわゆる在来工法です。

 「邸別構造解析」を謳っていますが構造解析、構造計算は当然、建物ごとに行うもの。法的に構造計算が義務付けられていない建物が壁量計算(仕様規定)のみで設計されている事に対し、違いを見せるためでしょうか。

ジャッジ!

 普通の在来工法とも言える構造であり、オリジナリティ、技術力も感じられません。ウエブサイトの技術情報では集成材の利点を説明していますが、集成材などは町屋の工務店でも普通に使用します。大和ハウスは木造については後発ですが、トップ住宅メーカーらしい工夫もありません。

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積水ハウス


【フレキシブルβシステム】

 構造形式は梁勝ちの鉄骨ラーメン構造です。そして、この工法の最大の特徴は「上下階で柱を通すことなく、自由に柱位置を動かせる」との謳い文句です。このことにより、意匠プランニングの自由度が増えます。意匠設計者より「積水ハウスと同じような構造は出来ないのか?」と言われたことがある構造設計者も少なくないと思います。意匠設計者からの絶大な支持があります。

 しかし、この工法が強度的、経済的に優れているかと言うと疑問です。架構形式としては柱を梁の上に建てる丘立ち柱が発生し、梁に大きな負担がかかるのは明白です。これは普通の鉄骨ラーメン構造でも可能ですが、構造設計者であれば積極的にこのようなことはしません。また、梁勝ちで柱をボルト接合するのでバルト孔による梁耐力の低下も発生します。

 尚、現在のフレキシブルβシステムには制振装置TMDが標準搭載されています。

ジャッジ!

 構造形式としては優れた強度を期待できるものではないと思います。やはり、柱は通っていた方が高い強度が期待出来るのは明らかです。もちろん、設計の自由度は下がりますが、それを納めるのが建築です。

 おそらく、積水ハウスではこの複雑な架構を効率良く対応できる設計、生産システムが構築されていると思われます。これについては大手ゼネコンなどが真似を出来ない部分でしょう。ある鉄骨ファブから聞いた話ですが、「積水の鉄骨ファブの技術力は凄い、敵わない」とのことです。


【シャーウッド】

 これも集成材によるドリフトピンタイプの金物工法であり、在来工法です。特徴的な部分としては基礎ダイレクトジョイントがあります。

 通常、基礎梁の上に木造の土台梁を載せ、その上に柱を建てますが、シャーウッドでは金物を用い、基礎と柱を直接接合しています。柱サイズの決定に大きく影響するめり込みを解消できると思われます。

 但し、アンカーボルトの精度管理は難しいものかあるでしょう。また、1本の柱に対し、斜めにアンカーボルトを2本配置するので、木造における通常の基礎梁幅150mではアンカーボルトの定着力に懸念があります。壁下地(胴縁)の接合もどうなっているのでしょう。

 尚、基礎ダイレクトジョイントについて、ウエブサイトでは開口幅が大きく出来るとの説明がありますが、これは合わせて、採用している高倍率耐力壁によるものです。建物全体として、壁長さを少なく出来るものであり、開口幅と直接、関係するものではありません。

ジャッジ!

 特徴的なのは基礎ダイレクトジョイント。他の技術者でも、この形式を思い付くことはあると思いますが、これを実現する施工管理体制は素晴らしいものがあります。ここに関わる様々な部分にも工夫があると思います。型式適合認定を取得しているので性能には問題ないでしょう。

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旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)


【重鉄制震・デュアルテックラーメン構造】

 この構造は旭化成ホームズが従来より行っていたラーメン構造と制振デバイスを組合せたものです。

 ラーメン構造部分は150mm角の角形鋼管にH形鋼梁をワンサイドボルトで接合した架構となっています。

 梁にはあらかじめ設備スリーブ、小梁接合用と思われる孔が設けられている部材を使用しており、システム的な生産体制が構築されています。

 制振パネルの接合は頭部にアダプティブジョイント、脚部にフレキシブルジョイントと言う接合形式となっています。同社の説明ではこれにより、地震動エネルギーの大半を1階に設置した制震デバイスで吸収することが可能となり、基礎にかかる負担を軽減するとなっています。

ジャッジ!

 住宅系のシステム構造ではブレース構造が採用される事が多いですが、この工法はラーメン構造で更にワンサイドボルトを利用した接合はオリジナリティがあります。
 全体的に非常にスマートな構造システムとなっています。採用している制振デバイスも名ばかり制振ではなく、機能しそうです。アダプティブジョイントについては詳細のシステム、性能が確認出来ませんでしたが非常にオリジナリティがあり、構造技術者として興味があります。



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積水化学工業(セキスイハイム)



【ボックスラーメン構造】

 100mm角、120mm角の角形鋼管柱にH=150、200mmの軽量溝形鋼梁をスポット溶接で接合したボックス状の架構を現場で組み合わせる工法です。

 この架構に外壁耐力壁面材を組合せた「GAIASS(ガイアス)」との名称の複合耐震性システムとなっています。この国土交通大臣認定を取得しているとのことですが、国土交通省による大臣認定帳票ではどれが該当するのか判断が出来ず、認定内容については不明です。
 尚、ウエブサイトではこの外壁耐力壁については通常の木造耐力壁に対し、2倍の耐力と謳っていますが、6倍程度なので、それほど高倍率ではありません。

ジャッジ!

 セキスイハイムは住宅を“ユニット単位”に分割して工場でつくり込むユニット工法をベースにする会社です。よって、このような構造形式を採用していますが、軽量形鋼の溶接は個人的には耐力的なに不安が残ります。
 セキスイハイムは徹底したプレファブ化の高品質住宅を提供しています。この合理性は特にエンジニアのお客様に大きな支持を受けているそうです。尚、積水化学工業は積水ハウスの親会社のようなものです。

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住友林業



【ビッグフレーム構法】

 ビッグコラムとの名称の幅560mmの柱をラグスクリューボルトで接合した木質ラーメン構造です。
 梁、基礎とビックコラムの接合は金物どうしによるメタルタッチで接合となっています。これは高い精度が要求される接合方法です。同社のウエブサイトでは接合方法について「構造を強固に一体化する高層ビルと同じ剛接合」との説明があります。RC造、鉄骨造では剛接合は通常の接合形式です。高層ビルと同じはちょっと言い過ぎかと思います。

 ラーメン構造のため、通常の軸組壁工法(在来工法)と比較し、構造体(壁)の長さは少なく出来ますが、住宅では意匠的に壁が必要になる部分も多く、そのための下地が必要になるため、木材数量は多くなり、メリットは活かせないかと考えます。店舗や事務所には向いている構法でしょう。

ジャッジ!

 この構法を標準的に採用することは木造のトップメーカーらしさを感じます。しかし、特別な工法ではありません。木造の弱点である接合部については、かなり強固に作っているようですが個人的にはやや不安が残ります。
 コスト的なメリットも感じられません。ウエブサイトによる説明も、もっと工夫を行えば技術力もアピールできるでしょう。

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