平成が終わろうとしています。この30年間で構造設計業界には何が起こって、どう変わったかを振り返りたいと思います。
平成元年(1989年)はバブル時代の真っ只中でした。私達、建設業界も好景気に沸いていました。
木村俊彦先生による空中庭園を持つ梅田スカイビル(平成2年着工、平成5年竣工)などは、まさにバブル時代の象徴の建物です。
他にも東京都庁などバブリーな建物が多数、建築されました。名だたる構造家も活躍しました。
平成で私達、構造設計者に最も大きな影響を与えた大地震としては阪神淡路大地震でしょう。
私達の想定していなかった地震被害も多くあり、構造設計基準も大きく改定されました。現在の「建築物の構造関係技術基準解説書」の前進にあたる「建築物の構造規定」について、緊急で別冊も出され、構造設計基準の強化が行われました。
平成の時代に入って、私達、構造設計者の作業効率も大きく向上しました。
今では当たり前の一貫構造計算プログラムが登場しました。この「一貫」との意味をご存じでしょうか?一貫構造計算プログラム以前は荷重計算、準備計算、応力計算、断面検定が別々のプログラムで行われ、次のステップに進むためには前の結果を入力する必要がありました。これが、全て一連で行われるようになったものが、一貫構造計算プログラムです。
一貫とは、このような意味があります。これにより、作業効率は格段に上がりました。ただし、この時代では、まだ、保有耐力計算までは一貫になっていませんでした。
この時代のもう一つの変化がありました。平成7年、window95がリリースされ、以降、パソコンの性能も飛躍的に上がっていきました。それまで、一貫構造計算プログラムによる解析が数十分、数時間掛かっていたまのが、数分で終わるようになったのです。
また、電子メールの普及により、図面や構造計算書が電子データとして、納品されるようになりました。それ以前は宅急便やクライアントに訪れ、直接、納品していました。
このように平成に入って、私達、構造設計者の業務効率も格段に上がりました。
平成の中盤となると21世紀が始まります。未来と思われていた21世紀は構造設計業界にとってはどのように始まったのでしょうか?
平成12年(2000年)、建築基準法が改正されました。平成の大改正と言われる改正です。この中では構造関係規定も強化されました。
特に小規模建物に対する規定の強化が行わ、大工さん任せであった木造住宅では、多くの混乱がありました。また、この改正で全ての建物に対し、地盤調査の実施が事実上、義務づけられました。 その他にも中間検査制度の導入や民間会社への建築確認業務の開放が行われました。
平成13年(2001年)5月19日に建築構造設計の実務者のためのサイトとして、『建築構造設計べんりねっと』が誕生しました。
平成時代最大のニュースです。(笑)
当時はスマートフォンもSNS、ブログもなく、パソコン向けのホームページが中心でした。今はほとんどなくなってしまった個人サイトも多数ありました。
以降の出来事については『建築構造設計べんりねっと』の建築構造設計会議室(掲示板)での構造設計技術者の声を含めて、振り返ります。
平成17年(2005年)11月17日、私達、構造設計業界を大きく揺るがす、大事件が発覚しました。
姉歯建築士による構造計算書偽造事件です。
姉歯建築士が構造設計を行ったマンションの構造計算書を偽造しており、耐震強度が大幅に不足している事が発覚しました。そして、民間の確認審査機関がこれを見抜けず、建築確認の許可を与えてしまっていたのです。
大きな社会問題にもなりした。
その時の状況は、建築構造設計会議室を見ると生々しく伝わってきます。
≪建築構造設計会議室(構造設計者の声)≫
2005年11月17日 「こんな事ってあり?」
この事件をきっかけに全ての設計者の過去の構造設計に対しても一斉に調査が行われました。そして、偽装はなかったものの、一部の構造設計者の技術力に問題がある事が発覚しました。業務停止処分を受けた設計者、設計事務所も少なからず、ありました。
平成19年(2007年)6月、耐震偽装事件を受けて、建築基準法、建築士法の改正、強化が行われました。
建築基準法は平成18年(2006年)6月には改正されていましたが、建築基準法施行令は施行日の前日に公示され、建築基準法告示は施行日には全て、揃っていない状態でした。
建築士法による罰則強化や図書に不備があった場合、訂正は認められず、建築確認審査が不適合になるとの内容のみ先行しました。結果、施行日から一ヶ月間は日本で一件も建築確認の審査が許可にならないと言う異常事態が起こったのです。もちろん、着工も出来ません。混乱はしばらく続き、倒産となる建設業者が多数出ました。
「国土交通省不況」と名前が付くほど混乱が起こりました。
≪建築構造設計会議室(構造設計者の声)≫
2007年6月19日 「いよいよ施行!」
平成20年より、構造設計一級建築士の講習が開始されました。ここにも多くの混乱やたくさんの人の不満を引き起こしました。
先にあった構造計算適合性判定員の講習終了者は事実上、試験が免除されました。また、JSCA建築構造士も試験の半分が免除されました。これらは事前に知らされていなく、不公平であると指摘されました。また、構造計算適合性判定員の中には一級建築士でない研究者も含まれており、制度のひずみが指摘されました。
このような事があり、不満をもった一部の構造設計者が爆発しました。何千人もの受講者が居る構造設計一級建築士の講習会場で講習中に立上がり、大声で制度に対する批判を行った人もいました。
それもそのはずです。今後、構造設計一級建築士の資格がないと実質、構造設計を仕事として収入を得ることは出来なくなってしますのです。実際に廃業した構造設計事務所も少なからずありました。
第一回目の修了考査者(試験合格者)は6000人弱でした。中には設計の実務者でない人も含まれており、この人数では日本の建物の設計がまかなえないとなり、2回もの追試が実質され、無理矢理に人数を揃えるなどの対応がされました。
更には、「法適合確認」などと言う名義貸し制度が作られました。
≪建築構造設計会議室(構造設計者の声)≫
2008年9月24日 「構造一級合格発表」
このように平成の中盤は構造設計者にとって、大混乱をもって、終わりました。
平成の後半が始まっても、建築基準法改正の混乱は納まらず、様々な制度改定が行われました。そんな中、あの大震災が日本を襲いました。
平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災です。この地震では建物の地震動による被害は少なかったものの、津波や福島第一原子力発電所事故は深刻な被害を与えました。
また、千葉県や茨城県には液状化被害が多く発生しました。
≪建築構造設計会議室(構造設計者の声)≫
2011年3月11日 「宮城県沖の地震:現況情報」
その他にも平成後半は多数の自然災害がありました。
耐震偽装事件により、強化された平成19年の建築基準法改正後も偽装事件はあとを絶ちません。
多数の災害を目の当たりにし、構造に関わる技術者は、被害を防がなくてはならないと思うはずですが、このように耐震偽装事件後も偽装事件は続きました。
平成31年4月1日、新元号が発表されました。「令和(れいわ)」です。令和時代、未来の構造設計はどのようになっていくのでしょうか?新しい時代への取り組みとしては以下が行われいます。
他にもネットで探した構造設計の未来予想を紹介します。
「構造エンジニアリングの未来は、ハイテク革命を生き延びる」
https://www.autodesk.co.jp/redshift/future-of-structural-engineering/
「建築物、構造物を維持する自己修復材料が実用化」
https://seikatsusoken.jp/futuretimeline/single.php?id=42832
「建築画報374号 近未来の構造設計」
2007年に建築構造設計べんりねっとが予測した近未来「建築構造設計2040年」
フリーソフトのみで構造設計を行うのを目標にフリーソフトを探してみました。
「YouTube動画で構造設計プログラムの使用方法を覚えられるか?」を検証するためにYouTubeを探してみました。
「スマホだけで建物まるごと構造設計ができるか?」を検証するためにスマホだけで建物の構造設計一式にチャレンジしてみました。
DL Marketのシステム障害により、ネットショップサービス「Booth」による販売を開始しました。