鉄骨造の構造経済設計〜基本事項

令和3年3月26日公開

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 鉄骨造はRC造のように自由に断面を設定出来る訳ではなく、規格された部材を選択することになります。工種も上部構造に限れば、鉄骨工事のみです。床、外壁のALC工事、デッキコンクリート工事などもありますが、これは意匠計画の影響が大きく、仕様も決まっているのでコストを変動させるのは難しい部分です。
 従って、鉄骨造は経済的な構造とするのが容易です。

 鋼材は他の材料に比べ、価格の変動が大きい材料です。工事の時期、鋼材の発注時期によって、建設費が大きく変動してしまいます。近年ではオリンピック施設の建設期間は価格が高騰しました。鉄骨造にはこのようなリスクもあリます。

 鉄骨造は商業施設や事務所ビルなど、コストについて厳しい要求がある用途の建物や工場、倉庫など仕上げのコストが低いため、相対的に躯体工事の比率が多い建物が多く、鉄骨造は経済設計を特に心掛けないとならない構造です。


【Contents】
  1. 建築構造の経済設計
  2. 経済設計の基本
  3. RC造の構造経済設計
  4. 鉄骨造の構造経済設計
  5. 基礎の構造経済設計
  6. 使える構造VE、コストダウン案 50選


とにかく鋼材重量を減らす

 経済的な鉄骨造とするには、とにかく鋼材重量を減らす事に尽きます。もちろん、溶接長さや接合部の形状などの要素も影響しますが、他の工事と同じように単価が物価本、インターネットで出ています。発注側はこの市場単価を基準にするので、鉄骨工事会社もこの価格から大きく外れることが出来ないのです。
 もちろん、全て、BH材にするなど、極端に加工が多い設計だと単価を上げる口実となってしまうのでコストは上がります。

 一昔前は鋼板を加工する角形鋼管は圧延材であるH形鋼よりも単価が高いと言われた時もありましたが、現在では角形鋼管、H形鋼も重量単価(t単価)は概ね同じです。また、柱をH形鋼とした方が仕口部の加工が楽になり、コストが下がるなどと言う人も居ますが、角形鋼管における仕口部の加工は自動化が進んでおり、加工コストも変わりません。

 鉄骨工事のコストは鋼材重量に「経済設計の基本」で解説しました材工の鉄骨工事単価を掛ければ計算出来ます。1m当たりの鉄骨重量は鋼材表を見れば載っていますので鉄骨は断面性能(断面係数、断面二次モーメント)だけでなく、重量を気にするようにしましょう。

(コスト試算)

  • H-450×200、長さ10mの梁: 74.9(kg/m)×10m×160,000(円/t) = 119,840 円
  • H-500×200、長さ5mの梁: 88.2(kg/m)×5m×160,000(円/t) = 70,560 円

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経済的合理性を持った工業化工法の利用

 鉄骨は部材が規格化されているため、接合部などの工法、省力化工法、材料の工業化が他の構造に比べ、進んでいます。(ベースパックなどの大臣認定露出柱脚、NDコアテーパーコアのような柱梁仕口部工法)

 このような製品は重量単価で考えるものではなく、製品単価でコストを考える必要があり、これらの工業化工法を全て使えばコストは下がると言う訳ではありません。とは言え、逆に全て工場加工による在来工法とするのも生産性が下がり、コストが上がってしまいます。

 鉄骨造においては工業化工法について、経済的合理性を考え、採用する必要があります。詳細は以降で解説します。


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鉄骨造もスパンは小さい方が経済的

 「鉄骨造は部材自重が小さいので大きなスパンとしても経済的である」と考えている人が多いと思いますが、これは間違いです。

 以下に鉄骨2階建て店舗(階高3.5m)で柱本数(梁スパン)を変えた場合の鉄骨コスト比較例を示します。

【ケース①】



【ケース②】

 この結果によると鉄骨総重量は梁スパンの小さいケース①の方が少なくなっています。

 鉄骨総重量に占める割合は柱よりも梁が多く、約20%です。

 梁の長期応力はスパン長の3乗に比例、たわみは4乗に比例するので、スパンが大きくなればその分以上に梁部材断面(鉄骨重量)が上がります。地震時を考えた場合でも柱本数が減れば梁端部に作用する応力が上がり、梁全長の断面サイズに影響します。

 一方、柱は本数が変わっても、負担する重量、地震力の総計は変わらないので、総重量は大きく変わりません。

 つまり、大きなスパンとすると(柱を少なくすると)、鉄骨重量(コスト)は上がります。

 経済設計の原則である「数量の多い部分に負担はかけない」からも大きなスパンとし、大きくの割合を占める梁材に負担をかける架構とするのは不経済です。


 H形鋼、角形鋼管などの鉄骨部材は他の構造部材に対し、強度的には効率が良い形状となっています。その分、ソリッドな部材に対し、変形に対しては弱くなります。

 よって、応力に対してではなく、変形で部材が決まってしまう事が多くあります。具体的にはスパンが大きい、階高が高いなどの場合です。これは部材の性能を使い切れていない事になり、このような効率の悪い状態を避けることが経済的になります。

 もちろん、大きな空間を作るには他の構造に比べ、鉄骨造は有利です。 しかし、経済的な設計とするにはやはり、柱を多くし、梁スパンを小さくし、変形を抑え、部材強度を発揮できる架構とした方が有利であると言う事です。


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ブレース構造は効率が良い

 鉄骨造の架構形式にはラーメン構造ブレース構造がありますが、コスト的にはブレース構造が圧倒的に有利です。

 通常、ラーメン構造の柱は角形鋼管、ブレース構造の場合はH形鋼を使用し、H形鋼の強軸方向はラーメン構造とします。柱の部材決定に大きく影響を与えるのは曲げと変形ですが、ブレース方向が問題となる事はありません。
 ラーメン方向について、角形鋼管柱と同等の断面性能のH形鋼とした場合、柱数量は細幅のH形鋼と出来れば重量は約50%減、中幅の場合は約30%減と出来ます。

 以下に□-300×300×16の角形鋼管柱と同等の断面性能を持つH形鋼柱のコスト比較を示します。


 ブレース構造を採用するには意匠的な制約が増える事になりますが、コストを抑えるには有効です。階高3mで柱が10本ある建物では約30万円のコストダウンとなるのです。

(コスト試算)

  • □-300×300×16: 138.0(kg/m)×3m×10m本×160,000(円/t) = 662,400 円
  • H-450×200: 74.9(kg/m)×3m×10m本×160,000(円/t) = 359,250 円
  • H-差額:662,400 - 359,250 = 302,880 円


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まとめ

  • 経済的な鉄骨造とするには、とにかく鋼材重量を減らす
  • 変形を抑え、部材強度を発揮できる架構とする
  • やはり、ブレース構造はコスト的に有利である





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