経済設計に長けた構造設計者になるには、まず、構造躯体に関わる単価を把握し、それが建物全体に対して、どのくらい影響するのかを知る事です。
そして、コスト感覚を持つことです。
覚えてくのは以下の4つです。
まずは主要な構造躯体工事の単価を覚えます。コンクリート工事、鉄筋工事、型枠工事、鉄骨工事です。ポイントは材料費と工事費を合わせた材工の単価で考えることです。
もちろん、各構造材料の単価は種別(強度)によって違いますが、積算、価格算定をするわけではなく、あくまで概算なので代表的な材料種別の単価で良いです。また、単価も覚えやすく、丸めた数字にします。
各構造躯体工事の単価(材工)は以下になります。
次に各材料強度の違いによる単価を把握します。「コンクリート強度を上げるべきか、断面を上げるべきか。鉄筋はSD345とSD390のどちらにするか。」このような判断をする上で必要です。
これを全て、覚えておくのは難しいので以下にまとめておきます。
材料・工事 | 規格 | 価格 | 単位 | 備考 |
コンクリート | Fc18 | 14,100 | ㎥ | 建設物価調査会 |
Fc21 | 14,400 | ㎥ | 東京地区生コン組合 | |
Fc24 | 14,750 | ㎥ | ||
Fc27 | 15,200 | ㎥ | ||
Fc30 | 16,300 | ㎥ | ||
Fc33 | 16,750 | ㎥ | ||
Fc36 | 17,500 | ㎥ | ||
鉄 筋 | SD295A | 73,000 | t | 東京製鐵 |
SD345 | 74,000 | t | ||
SD390 | 76,000 | t | ||
高強度鉄筋 | KSS785 | 210,000 | t | けんせつPlaza |
H形鋼 | SS400 | 93,000 | t | 東京製鐵 |
SM490A | 96,000 | t | ||
SN490B | 100,000 | t | ||
角形鋼管 | STKR400 | 91,000 | t | 東京製鐵 |
STKR490 | 93,000 | t | ||
BCR295 | 93,000 | t | ||
構造スリット(垂直) | T150-W25 | 2,820 | m | 岡部スリットン |
構造スリット(水平) | T150-W25 | 970 | m | |
型枠組立 | - | 4,800 | ㎡ | 建設物価調査会 |
コンクリート打設 | - | 920 | ㎥ | 建設物価調査会 |
鉄筋加工組立 | - | 48,000 | t | 建設物価調査会 |
鉄筋圧接 | D19 | 480 | 箇所 | |
D22 | 500 | 箇所 | ||
D25 | 520 | 箇所 | ||
D29 | 790 | 箇所 | ||
D32 | 910 | 箇所 | ||
鉄骨加工 | - | 53,700 | t | 建設物価調査会 |
鉄骨建方 | - | 10,200 | t |
さて、各部の価格はこれで簡単に計算出来ますが、例えば、コンクリート強度を変えた場合の価格差などはその階全体に影響するため、数量を算出するのが困難です。
そんな時は歩掛りを使い、算出します。
歩掛りとは過去の積算実績から、床面積当たりのコンクリートや型枠などの平均的な数量を算出したものです。
材料 | 歩掛り | 単位 |
コンクリート | 0.89 | ㎥/㎡ |
型枠 | 4.95 | ㎡/㎡ |
鉄筋 | 0.12 | t/㎡ |
鉄骨 | 0.15 | t/㎡ |
※参考:建築コスト管理システム研究所、日本建築積算協会
もちろん、これは建物の用途、形状によっても変わりますが、あくまで概算なので、この方法で十分です。一貫構造計算プログラムの積算機能を使うのも良いでしょう。
次に総工事費に対する割合を算出するためには建物全体の価格を把握する必要があります。総工費5億円(原価)の建物で「5万円安くなります。」では嬉しくありません。比率は0.01%です。
その価格がどの程度の影響になるのかを理解する必要があります。
この価格を正確に算出するのは更に複雑になりますが、これは坪単価と言うものを利用しましょう。
構造材数量の歩掛りと同じように過去の積算実績からの床面積当たりの建物の総工事費です。
と言っても建設会社各社が原価を公表する事はありませんので国交省統計による工事請負金額(売価)から、経費10%、粗利率20%で計算すると建物原価は以下になります。
建物用途 | 構造 | 万円/坪 |
分譲マンション | RC造 | 63.5 |
賃貸マンション | RC造 | 59.6 |
事務所ビル | RC造 | 87.0 |
鉄骨造 | 71.1 | |
ホテル | RC造 | 73.6 |
鉄骨造 | 84.3 | |
商業店舗 | 鉄骨造 | 40.9 |
倉庫 | 鉄骨造 | 29.4 |
※1坪=約3.3㎡
※参考:アーキブック - 建設専門のポータルサイト
これで、構造体の各部のコスト算出、建物全体の価格に対する比率が算出出来ます。
そして、大事なのはその金額がどのくらいの影響になるかを理解するコスト感覚です。
総工費5億円(原価)の建物で500万円安くなりました。比率として、1%です。構造計算で1%は誤差程度ですが、建物の価格としては大きな差があります。売れる金額は決まっていると考えるとその分は利益になります。また、販売価格(経費10%、粗利率20%)としては700万円弱になります。借入をする事を考えると1000万円以上の差が出る事になります。この1%の影響は大きいのです。
不動産投資からの観点で考えてみます。不動産投資の利回りは概ね5%程度です。利回りは(不動産収入)÷(建物価格)です。建物の価格が0.5%下がると利回りは約5.5%と10%も増えることになるのです。大きいですよね。
間違っても言ってはいけないのは「これを変えても、50万円しか変わりません。」です。この例で言うと0.1%ですが、このような項目を10個探せば、1%です。
「〇〇円しか変わりせん。」と言ってよいのは億単位の建物で数万円までです。逆に言うと数万円単位のVE案、CD案を出したら、「それでけですか?」になります。
この建物規模で構造設計料は通常200万円程度です。300万円払っても、500万円下げてくれるなら、誰だって、その構造設計事務所に依頼したいですよね。
構造材料・構造体工事の単価は上記の記載したサイトでも確認できますが、より詳細な情報を得ようと思ったら、以下の雑誌を買いましょう。毎号買う必要はありませんが、1年に一度程度は購入した方が良いでしょう。
他にも“主要資材動向”は新聞にも載っていますので気にするようにしましょう。尚、建設ナビ他の市場単価動向の基準としている材料はコンクリートはFc18、鉄筋はSD295AのD16、鉄骨はSS400のH-200×100です。「今、鉄筋はいくら?」との会話はこの材料を基にしています。
鋼材は特に価格の変動が大きく、建設業界以外も多く使用するのでニュースでも良く取り上げられます。「最近、鋼材が上がってますね。」などの会話をすれば、コストに強い構造設計者との印象を与えます。