経済設計の話題となるとVE、CDという言葉が出ます。予算が超過した、元々、予算が少ないなどの場合に「CD(コストダウン)を検討して下さい。VE案を出して下さい。」などの話が出ます。
ここではVE、CDについて説明します。
VE、CDの違いは、一般的な説明だと以下のようになります。
CDとは、「Cost Down(コストダウン)」の略で、性能、価値が低下しても良いことを前提として、コストを下げる変更を行うこと。
VEとは、「Value Engineering(バリューエンジニアリング)」の略で、性能や価値を下げずにコストを抑えること。または過剰であった部分の仕様、性能を下げ、下がった金額で他の部分のグレードを上げ、全体の価値を向上させることです。
VEについて、もう少し説明するとValue Engineering(バリューエンジニアリング)は価値工学と訳され、製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係を体系化された手法により「価値」の向上をはかると言うものです。
予算が足りないから、VEをすると言うのではなく、製品やサービスの「価値」を上げ、企業の競争力の強化、お客様の満足度向上のためのものです。
さて、実際はどうでしょう?構造設計において、正しい意味でVE、CDが使われていますでしょうか?事例を考えてみます。
CD案は性能、仕様を下げても良いのが前提なので、事例を上げるのは簡単です。
他にも多数ありますが、仕様・性能を下げるのでクライアントの同意が必要でしょう。
では、VE案はどうでしょうか?
構造に関するVEとして、考えられるのはまず、施工者側からの施工方法に関する変更提案や製品、資材の変更提案などの施工段階のVEです。
工事請負前ではVEにより、請負金額を下げますが、請負契約後であれば、ゼネコン側の利益を増やすことを目的に行われます。
では、構造設計段階でのVEとは、どのようなケースがあるでしょうか。
構造設計者が自分の設計に対し、性能や仕様を下げずにコストを下げる事が出来たとしたら、自分の設計が十分でなかったと認めるようなものです。
仕様、性能を落とさない中での意匠計画への変更提案により、構造コストを下げることはVEと呼んでも良いでしょう。ただし、これも当初の設計が十分でなかったとの側面は少なからず、あります。
では実状はどうでしょうか?
明らかに仕様、性能(安全率)を下げる変更にも係らず、VEと言っています。仕様、性能を下げるCD(コストダウン)では印象が悪いので、VEと呼んでいる事例が多いのが実情です。
この構造VEを業務にしている構造設計事務所があります。
それは構造設計が終わっている建物を別の構造設計者が再検討を行い、コストを下げる行為です。この業務は通常、基本設計料金とコストダウン額に応じた歩合、出来高制で行われます。
設計変更を前提とすることで工事を請け負ったゼネコンやコストを抑えたいデベロッパーやコンストラクションマネジメント会社などが依頼します。
どのようにコストを下げるかと言うと、明らかな無駄な部分を探し、基本的には仕様、性能(安全率)を下げずにコストを絞っていきます。
尚、このような会社はコストダウン額に応じた歩合が報酬なので、コストを下げられる、無駄があると思った設計に対してのみ業務を受託します。
このような構造VEを行う設計事務所を悪く言う人も居ます。確かにあからさま仕様、性能(安全率)を下げたり、モラルのないVE構造事務所もあるでしょう。
さて、自分の設計が別の構造設計者により、構造VEが行われたら、自分の構造設計者としての評価はどうなるでしょうか。発注者からすると能力がない構造設計者との評価になり、今後の依頼は来なくなるでしょう。
このようにならないようするには、構造設計は安全性はもちろん、経済性(コスト)についても強くなっておく、必要があります。