メインフレームである柱、大梁の経済設計手法の解説を行います。
部材がNGの場合の対応としては断面サイズを上げる、鉄筋を増やす、コンクリートを上げるのいずれかになります。問題はどれを選択するのが一番、経済的であるかです。
前章までに説明しました経済設計手法の基本で大梁に関連する部分を整理すると以下になります。
・型枠を減らす事が効果的である。
・梁せいを抑え、階高を抑える。
言うまでもなく、同じ鉄筋量であれば、梁せいが大きいほど、耐力が上がります。また、梁せいを5cm程度上げるよりも主筋を1、2本増やした方が耐力が上がるのも構造設計者であれば分かっている事と思います。
この基本事項を踏まえると経済的な大梁の設計方法としては以下になります。
その他、短いスパンの梁でも極力、カットオフ筋を使用し、中央部配筋を減らしましょう。圧接コストが削減出来ます。
柱の経済設計手法は基本、大梁と同じですが、柱の設計で一番、厳しいのは柱梁接合部の検討です。この部分を効率良く対応することが経済的な柱の設計となります。
柱梁接合部がNGの場合、梁の耐力を不要に上げていない限り、柱サイズを上げるか、コンクリート強度を上げるかのどちらかになります。
コンクリート強度を上げるとその階全体のコストが上がります。柱と梁が交差する部分の為だけに全体のコストを上げるのは効率が悪いです。意匠上の支障が無ければ、柱サイズを上げること考えましょう。
コスト比較例の建物で検討してみます。対応方法としては以下の2通りがあります。
①コンクリート強度をFc24から、Fc27に上げる。
②柱サイズを800×800から850×850に上げる。
コンクリート強度を上げると1層で約24万円のコストが上がります。柱サイズを上げる方が壁が全てなく、サイズを上げた分、型枠が増えるとしても7万円程度であり、17万円の差が出ます。
(コスト試算)
構造設計の参考書では「一次設計は二次設計(保有水平耐力検討)を見越して行う」とあります。確かに柱が弱く、保有耐力で塑性ヒンジが発生する状態では耐力も出ません。一次設計では柱耐力(断面、配筋)に余裕を持った設計が必要です。
ですが、 あえて、二次設計(保有耐力計算)は考えずに一次設計(許容応力度計算)をまとめることを勧めます。
二次設計の状態を完璧に把握し、最適な設計が出来る突出した能力を持っている構造設計者なら良いでしょう。しかし、普通の構造設計者では設計作業の効率は上がっても、コストに対して、最適な断面、配筋を設計するのは、この方法では困難です。
まずは一次設計で最小限の断面、配筋を設定します。その為には一次設計がまとまるまで、一貫構造計算プログラムの保有耐力計算を行わないことです。
次に一次設計における主架構の検討手順です。多くの構造設計者は以下順番で設計します。
①大梁の断面設定及び主筋の算定
②大梁のせん断設計(スタータップ算定、コンクリート強度設定)
③柱の断面設定及び主筋の算定
④柱のせん断設計(フープ算定、コンクリート強度設定)
⑤柱梁仕口部の検討(柱断面、コンクリート強度設定)
⑥耐震壁の設計
経済的に構造設計をするために以下の検討手順を勧めます。
①大梁の断面設定及び主筋の算定
②柱の断面設定及び主筋の算定
③柱梁仕口部の検討(柱断面、コンクリート強度設定)
④柱のせん断設計(フープ算定、コンクリート強度設定)
⑤大梁のせん断設計(スタータップ算定)
⑥耐震壁の設計
理由はせん断設計(スターラップ、フープ、コンクリート強度)を無駄なく経済的に行うためです。
コンクリート強度を上げることは、その層全体に影響を与えます。Fc24とFc27の材料差額は450円/㎥であり、面積当たりにすると0.23%のコストアップです。尚、Fc30からは高性能AE減水材の使用により、Fc27との差額は1,100円/㎥になり、面積当たりで0.57%のアップです。
金額にすると先にあげた建物例では数十万円違う事になり、慎重に行うべきです。
せん断設計が一番厳しいのは柱梁仕口部、次に柱です。コンクリート強度を上げる判断をするのは、ほとんどがこの段階です。先に大梁のスターラップを決め、後でコンクリート強度を上げるとなると無駄な配筋となってしまうのです。柱フープも同様です。